教え方にもコツがある

幼児、児童、生徒の教育をメインに、自らの学びから、成長するために本当に大切なことは何かを考察していきます。

問題を抱えた子どもを目の前にしたら

問題行動をどう捉えるか

 目の前で起こる子どもの問題行動に対し、あなたの思考はどう働きますか?

 付随する感情は、怒りや驚き、失望など様々かもしれませんが、きっと多くの人が、「一体なんでこんなことをするんだ?」と考えるのではないでしょうか。

 私も以前はそうでした。

 問題行動の根底にある原因を正確に掴むために、勉強に勉強を重ね、児童心理から発達障害精神障害人格障害のあれこれを学びました。

 恥ずかしながら、時にはしたり顔で「あの子の症状を見る限りだと、ADHDとLDのスペクトラムが強めな印象を受けるなあ。度重なる失敗経験から、反抗性障害を引き起こしているかもしれないね」などと似非専門家のような真似事をしたこともありました(黒歴史です、付け焼き刃なのに恥ずかしい…)。

 

 問題行動の裏側に潜む原因追及が無駄だとは思いません。しかし、当時の私は、原因から対策へとうまく繋げられていなかったように思います。これが、付け焼き刃が付け焼き刃たる所以でした。

 私は研究者ではなく、子どもを目の前にする教育者です。比重としては、「対策」の方を重視しなければならない立場だったはずだと反省しています。

 もっと言えば、私の原因追及の過程など正確さとは程遠いものであったに違いありません。

 例え優れた研究者であったとしても、この原因追及が100%正確である保証はどこにもありません(主な原因を探る上では有効であると思います)。子どもの発達や心理状況、脳の働きや生育環境、人間関係などが複合的に関与し合い、目の前の問題行動が発生しているわけですから、それらを全て正確に言い当てることは、検証の仕様がない以上、極めて困難でしょう。

 

フィンランド式スキル思考

 フィンランドの教育現場では、この問題行動の捉え方が私のそれ(そしてそれは大多数の教育従事者のそれと似通っていると認識しています)とは大きく異なっていることを学びました。

 フィンランドでは、問題行動の原因追及より、その後の対策に力を注ぐ「スキル思考」が主流のようです。

 ある問題行動を目の前にしたときに、「この子はどういう問題を抱えているのだろう」ではなく、「この子にとって今必要なスキルは何だろう」と考えるのだそうです。

 つまり、「問題行動」そのものの捉え方が、日本式の「心か頭か環境、その他いずれかに問題を抱えているから起こる」というものではなく、「より良く生きるためのスキルが、まだ身についていない」と考えるのがフィンランド式だそうです。

 

スキル思考のメリット

 この考え方のメリットはいくつもありますが、個人的に感じる大きなメリットを2つ紹介します。

 

  1. 教える立場の感情処理

「なんでできないんだ」「どうしてそういうことをするんだ」こういった原因追及に伴う思考は、怒りの感情に結びつきやすい傾向にあります。

「どうすればできるようになるのだろう」「どんなスキルが必要なのだろう」こう考えることで、冷静に考えることができるようになり、結果として目の前の子どもに適切な支援や提案を行えるようになります。

 在宅勤務が続き、私自身我が子に勉強を教える時間がたくさんありましたが、やはりイライラすることもかなりありました。

 その怒りの感情の根底には、「これくらいは分かるだろう」「この問題はできて当たり前」という主観が固定されています。その固定概念を覆すためにも、「どうすれば…」「どのようなスキルが…」と冷静に考えることは非常に有効であったように感じます。

 

  2.  肯定的な話し合いへ

 教師がある子どもの問題行動対策をするときに、保護者の協力や理解が必要なことがあります。

 そのときに、「A君は授業中に教師の話を聞かずに出歩いてしまうことがあるのです。何が原因だと思われますか?」と原因追及のために話を進めてしまうと、話し合いは否定的な方向へと向かいがちです。

 保護者によっては、子どもの問題行動を迫られている、今までの家庭教育を否定されている、と感じるかもしれません。

 それを、「A君がよりよく学ぶためには、教師の話をより集中して聴き、席に座って学習に取り組むためのスキルが必要だと考えているのですが、どのような練習が必要だと思われますか」と切り出すことで、話は子どもの「未来」へと向かっていき、話の内容も肯定的なものになります。

 A君の好きなものや興味関心などにも話が及び、より深い子どもへの理解に繋がる機会になるかもしれません。

 

問題行動を未習熟のスキルに

 フィンランド式スキル思考の基本概念は、問題行動が起こるのは、その子に問題があるから、ではなく、まだ学んでいないスキルがあるから、というものです。

「問題行動」=「スキルの欠如」と捉えることをスキリングと呼びます。

 スキリングをするためには、「問題を解消するには、この子はどのようなことを学ぶ必要があるのだろう」と考えることが第一歩です。

 このとき、トートロジー(反復同意)を避けるために、スキリングは解決志向アプローチのスタンスをとります。

 つまり、スキリングは問題行動をやめるものではなく、問題行動に代わる正しい(適切な)行動・方法を学習していくためのものであるということです。

 

  • 友達に悪口を言う子がいるならば、「悪口を言わない」ではなく、「友達が嬉しくなるような言葉をかける」
  • 授業中、出歩いてしまう子がいるならば、「授業中出歩かない」ではなく、「授業中に机に座り続ける」
  • 給食でふざける子がいるならば、「食べ物で遊ばない」ではなく、「礼儀正しく食事をする」

 

 そして、最も大切なことは、このスキル学習では子どもの同意が必要不可欠であるということです。

 そして、目指すゴールを確認したり、そこまでの過程を共に創造していくことです。

 子どもの意欲付けは言うまでもなく大切で、協力者を誰にするのか、達成した暁には、どのような良いことが待っているのか、など、時間をかけて、子どもの気持ちを確認しながら、進めていくことが必要です。

 

 具体的なステップや方法については、ベン・ファーマン著の『フィンランド式キッズスキル』に書かれていますので、興味があればご一読ください。

 

 目の前にいる子どもたちの健やかな成長や幸せに満ちた人生のために、私たち大人が感情的になることなく、温かい気持ちで彼らと一緒に問題を乗り越える道筋を考え、支援していきたいですよね。

 今日は、私が学んだフィンランド式スキルの考え方を紹介させて頂きました。

 それでは、また!