なぜphonicsを忘れてしまうのか
必要がなければ忘れる
前回の続きで、今回もphonicsについて書きます。
1年の最初に(もしくは今の時代は小学校で)しっかりと学んできているはずのphonicsですが、なぜそれを忘れている生徒が多いのでしょうか。
先日、Twitterで英語の教員の方が
「phonicsは本当に必要なのか。自分が英語を学習してきたときは、綴りの練習からなんとなく音のルールを学び、覚えてきた」
と呟いておられました。
英語の教員の方で(私もですが)こういう学習過程を経てきた方は多いはずです。
だから、同じように生徒も学んでいくはずだと考えている。
しかし、現実に、目の前にその帰納法的な学習では音のルールを見つけられず、いつまでたっても英語が読めない生徒がいます。
そういった生徒を少しでも多く救うために、phonicsは有用ではないかと考えています。
では、なぜphonicsが有用ではないと考える英語教師がいるのか。
まさに上の問いに対する答えが、生徒がphonicsを忘れていく理由に直結しているのです。
まず、phonicsが有用ではないと考える英語教師の思考にアプローチしていこうと思います。
phonicsの指導が、単一文字だけ
phonicsが有用ではないと考える英語教師は、そもそも優秀な学習者であったケースが多いはずです。
数ある単語の音声パターンから、「こう書かれているときは、今まで習った英単語の音声パターンからいうと、こんな感じ」と、経験則的に分かってしまう頭脳を持っています。
また、phonicsの指導をする場合に、アルファベット一つ一つの音、もしくはthやwhなどの代表的な連続文字の指導で終結している場合が多いのではないでしょうか。
そして、そのパターンに当てはまらない単語がいかに多いことか、ということも知っています。
上の指導でphonics指導が完結しているのだとすれば、phonics指導はほとんど役に立たず、「え、これ教えた意味あるの?」と感じるはずです。
しかし、本来のphonicsの指導はこの段階では終わらないのです。
英語教師の多くが経験則的(帰納法的)に分かっている「なんとなくこう読むはず」の「なんとなく」を一般化(言語化)し、音の繋げ方(linking)まで指導することで、初めてphonicsの指導が効果をあげます。
「そんなの知っとるわ!そこまで知っていて効果がないと思っとるんじゃい!」という方は、これ以上この記事を読み進めてもあまり意味がありませんので、そっとページを閉じて下さい笑(お役に立てず申し訳ありません)
aは「ア」から、thは「ス、ズ」まで指導してphonicsは終わっています、という方は、この後の記事が参考になる可能性があります。
とは言っても、今回の記事だけでphonicsの指導の全てを説明するのは大変なので、数回に分けて書くつもりでいますが、興味があればお付き合いください。
全然phonics使わないじゃん!
次に生徒がphonicsを忘れていく過程を説明します。
単純な話ですが、脳は使わない知識を「必要のない知識」として捉えます。
脳のメモリーには限りがありますから、こうした「必要のない記憶」は忘れるようになっています。(私たちの脳はなんて賢いのでしょう!)
つまり、生徒がphonicsを忘れるのは、phonicsを「使えない(使わない)知識」だと感じているからに他なりません。
その理由は2つあります。
- 使い方を学ばないから
- 使えない例から学ぶから
順番に説明していきます。
1. 使い方を学ばないから
phonicsの使い方とはまさに、音の繋がり方のことです。
例えばdogという単語がなぜ「ドッグ」になるのか。
多くの生徒は、「dはドゥッ、oはオ、gはグッ、だからドッグと読むのです」で事足ります。
しかし、slow learnerの生徒は、これでは不十分です。どこまで教えてあげるべきなのか。
上の説明のあとに一緒に音を繋げていきます。
「じゃあ音を繋げていこうね。dはドゥッ、doでドゥオ、dogでドゥオグ、ドゥオッグ、ドッグと読みます」
このとき、一文字ずつ増やして音を繋げていくことが大切です。
dとoとgのそれぞれの音から、全体の音へと繋がる過程を、丁寧に、何度も指導していくことで、phonicsが単語の音を構成する要素であることを体感的に学習させます。
それが、phonicsが「使える」知識であるという認識を生み出し、phonicsを忘れてしまう事態を防ぎます。
2. 使えない例を学ぶから
ここまでの指導内容は大体、アルファベット指導のために教材を買えばアルファベット練習の後ろの方のページに付随しています。
そこまで指導したのにも関わらず、忘れる生徒だってたくさんいます。
それは、phonics指導が終わり教科書に入ったところで出てくる単語に原因があります。
さて、教科書の最初の方のページで、英語教師は生徒にどんな単語を学ばせるのでしょうか。
特別な工夫をしなければ、数字や曜日、月などではないでしょうか。
そしてそれらは、見事にphonicsのルール外の単語たちなのです。
昔からあるような単語は、phonicsのルールに沿わないことが多いです。
そもそも、phonicsを完璧に学んでいたとしても、読めるのは全ての英語の80%と言われています。
phonicsのルールを学んだあとすぐに、ルール外の20%を一生懸命勉強させられる生徒の気持ちを想像してみましょう。
「oneって、この前やったphonicsだと、オネなのに、なんでこれでワンなんだ…?」
「Wednesdayって、どう読んだってウェドゥネスデイじゃん…phonicsってなんだったん…」
日本語で言えば、1年生が「五」という感じを「ご」という読み方で勉強したあとに、「五月雨(さみだれ)」「五月蝿い(うるさい)」などを一生懸命覚えさせられるようなものです。
それだけではありません。
phonicsと合わせて指導しなければいけないのが、上で言及したthやwhなどの2つ以上のアルファベットで決まった音を構成するdigraph(ダイグラフ)と呼ばれるものです。
そしてこのdigraphは、phonics以上に種類があります。全てを一度に教える必要はありませんが、代表的なものと、母音が2つ重なった場合のルールについては、必ず触れておかなければいけません。
でなければ、speakが「スペアク」ではなく、「スピーク」と読む理由が説明できないからです。
何度も言いますが、phonicsが役に立たないと生徒が感じた時点で、その知識価値は脳内でランクダウンし、忘れてよいカテゴリーに分類され、記憶の彼方へと追いやられてしまいます。
phonicsが有用であることを生徒に教え示すこと。
そしてそのために、phonicsやdigraphなども含めて正しい音声指導の流れを知っておくことが大切です。
なかなか字面では伝わりにくいのですが、一度正しい流れのphonics指導を受けることが一番効果的です。
学習者の立場になって経験すること以上に、自分の今の指導観を変えてくれることはありませんから。
では、正しいphonicsの指導はどこで受けられるのでしょうか。
YouTubeなんかでよい指導動画があればご紹介したのですが、私の求めるようなものは見つかりませんでした(探し方が悪いのか…?)
じゃあお前が動画作れよ、って話なんですけど、めんどくさいので嫌なんです笑!
ここまで偉そうにphonicsがなんやかんやと語っておいて、最後に人間の器の小ささが露呈してしまう結果に終わりましたね。
次回はdigraphについて書こうと思います。
ではまた!