教え方にもコツがある

幼児、児童、生徒の教育をメインに、自らの学びから、成長するために本当に大切なことは何かを考察していきます。

子どもにやる気を起こさせるには

やる気は習慣に起因する

「やる気スイッチ」という言葉が一時流行りましたが、中学三年生の三者面談などで、「先生、子どもが全然勉強をやる気にならなくて」という相談を受けます。

中学三年生という時期に限定して言うと、やる気を失うメカニズムは大概「習慣」に起因します。

勉強に限って言うと、やる気がないから勉強しない、というパターンではなく、ダラダラしている間にやる気がなくなっていく、というケースが多いように感じます。

では、やる気が失われる悪しき習慣にはどのようなものがあるのか。

  1. スマホ
  2. ゲーム
  3. 生活習慣

それぞれ考察していきます。

 

SNSの弊害

『2時間の学習効果が消える! やってはいけない脳の習慣』という本には、衝撃的なデータが掲載されています。

それは、全く勉強しない子どもより、2時間勉強して、4時間スマホをいじる子どもの方が、学力は低くなる傾向にあるというデータです。

特に、SNSは前帯状回(注意の集中や切り替え、衝動的な行動を抑えるという機能を司る部位)を縮めてしまうそうです。

脳には可塑性(ある物質の柔軟性)という機能があり、思春期の脳は特に可塑性が高いそうです。

多感な時期に、SNSでどんな情報がやり取りされているか、ということに気を取られてばかりいると、集中力の高まりが阻害されるようになり、結果的に学習に悪い影響を与えるそうです。

LINEなどが頻繁に鳴り響く環境の中で、子どもの脳は「パブロフの犬」のように、LINEの通知音に反射的に反応するようになってしまいます。

ビアプレッシャーが特に強い思春期の子どもにはやはり、その利便性と秤にかけても、私には不必要と感じてしまいます。

SNSに夢中になってしまうことが、結果的に子どもの学習に対する意欲を奪っていくのです。

 

ゲームや動画がやる気を奪う

ゲームや動画といったメディアは、前頭前野(思考力、判断力、感情などを司る部位)の血圧の低下を招くという研究があります。

よく、幼児期にテレビばかり見て育った子どもがコミュニケーションに難を抱えたり、無感情になったりすると言われますが、これも前頭前野への悪影響だと考えられます。

よく勘違いされるのは、やる気とメディアの因果関係です。

やる気がないから、ゲームをしてしまうのではなく、ゲームをするからやる気がなくなる、という因果関係が真です。

そしてそれは、子どもの未発達な自制能力では如何ともしがたいことです。

保護者の管理監督や、明確なルールが徹底されている環境下になければ、子どもがゲームや動画に耽溺するのは自明の理です。

心の弱さではないのです。

これは、マシュマロテストという研究でも明らかになっていることです。

マシュマロテストは、子どもの自制心のメカニズムの解明を目的に行われた研究です。幼児期の子どもに「このマシュマロを食べてもいいけど、私が部屋を出てから戻ってくるまでに食べるのを我慢できれば、もう一つマシュマロをあげるよ」と言って大人は部屋を出ます。その後の子どもの行動を観察すると、マシュマロを食べずに我慢できた子どもと、そうでない子どものある行動の違いが如実になりました。

それは、誘因物質(この場合はマシュマロ)に対するアプローチ回数の多寡です。

マシュマロを我慢できた子どもは、別の遊びに興じることで、マシュマロを見る回数が限りなく少なかったそうです。それに対し、マシュマロを我慢できずに食べてしまった子どもは、マシュマロから目が離せず、触ったり匂いを嗅いだりして、マシュマロに接している時間と回数が多かったそうです。

つまり、子どもの自制心は、誘惑物に対する接触回数と時間によって規定されるということが明らかになったのです。

学習でいうと、その誘惑物はディストラクターと呼び、そういったものを一切排除するなどの環境の整備も、質の高い学習には不可欠だそうです。

ゲームや動画が手の届くところにありながら、勉強に集中しろ、と言うのは、土台無理な話なのかもしれません。

 

やる気は生活習慣から

規則正しい生活習慣は、脳のドーパミンセロトニン、エンドルフィンなどの分泌を促します。

自堕落な生活をしている状態では、なかなか勉強に向かうモチベーションも上がりません。

では自堕落な生活習慣を破壊するにはどうすればいいか。

まず、自堕落な習慣の前にあるトリガー(引き金)となっている行動に着目します。

例えば、「家に帰ったらソファに寝転がってスマホから手が離せない」という自堕落な行動には、「ソファに寝転がる」というトリガーが存在します。

それを避けるには、当たり前ですが「ソファに寝転がらない」ことが大切です。

そうやって、自堕落な行動を引き起こす要因となっている行動を避けることで、定着してしまっている「自堕落な行動」を避けることが必要なのです。

そもそも、学習も習慣です。

この習慣づくりは、主に小学校低学年でその基礎が築かれます。

この時期に、決まった時間机に向かう習慣がしっかりできている子どもは、やる気のあるなしに関わらず、机に向かうようになります。

その時に、親の支援は絶対必要です。

子どもが宿題をする手助けをしたり、「偉いね」と認める声かけを行い、その行動を強化して習慣へと昇華させることで、子どもの学習習慣を確立することです。

勉強は、やる気があってもなくてもするものです」と言えるのは、そういう学習習慣が確立されている子どもに対してです。

例えば歯磨きは、やる気がなくてもします。

それは、歯磨きが習慣になっているからです。

学習も、その習慣のレベルにまで引き上げ、「やらないと気持ち悪い」「勉強しないと落ち着かない」という気持ちにさせることが、親の大きな役割と責任ではないでしょうか。

 

子どもをやる気にさせるには

ここまで、やる気のメカニズムについて書いてきましたが、個人的に子どもをやる気にさせるための大人の役割は大きく二つだと感じています。

  1. 褒める
  2. 目的意識とゴールへの過程をフィードバックする

一つ目に関して言えば、「増やしたい(強化したい行動)は褒める」ことが鉄則です。

この時に気を付けなければいけないことは、結果ではなく努力過程を肯定的に評価することです。

特に注意すべきは、外的動機付け(報酬)を与えてはいけない、ということです。

結果に対して外的動機付けを行うと、その行動に対して子どもがマイナスの感情を抱いてしまうということが行動経済学で明らかになっています。

これを、アンダーマイニング効果と言います。

詳しくは、『ヘンテコノミクス』という本に書いてあります。

結果ではなく、努力の過程に対して、常に肯定的なフィードバックを行いましょう。

 

二つ目に関して言うと、まずその行動の先にある目的をしっかりと確認させてあげることが大切です。

「とりあえず頑張ろう」では、人は頑張れません。

その努力は何のために行われているものなのか、その意義をしっかり語って聞かせてあげないといけません。

また、子どもがゴールまでの道のりの間のどの位置にいるのかについても、共有してあげないといけません。

「今、ゴールまで七合目の位置まで来たね」

「あと10点点数が上がれば、目標達成だね」

「この問題集を終えたら、復習に関してはクリアだ」

そうやって励まし続けながら、子どもの横を併走してあげましょう。

 

よく、学習はマラソンに例えられますが、それは決して孤独な闘いではなく、協力者、理解者として私たちがいることを納得させ、支え続けることも、教師の大切な役割だと言えます。

 

今日はここまで。

では、また!